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 札幌市市長 様

申し入れ札幌市において、人と熊が共存するための提言

 

2012年7 月6日

 

日本熊森協会
会長 森山まり子
顧問 農学博士 門崎 允昭

下記事項について、速やかに、実施されることを申し入れます。

① 熊の駆除はやめること。
(資料 1と2を参照されたい)

② 住宅地への熊の出現を予防するため、出没地の林縁沿いに柵を設置すること。
(資料 3を参照されたい)

③ 熊に関する正しい知識を啓蒙すること。
(資料 4を参照されたい)

例えば、熊の生態について。
熊が住宅地に出て来る原因について。
人身事故の原因と対策について。
人と熊が共存すべき理由について。

                                  (以 上)

 以下の記述は、門崎允昭が1970年から現在に至る、43年間に北海道その他で、熊Ursusに関する、生態・形態・人との関わり(人身事故・家畜作物果樹の被害)について調査研究した成績に基づくものである(成績は論文として公表済み)。

 

(資料 1)

札幌市での1978年~2011年の34年間の年度別ヒグマ捕獲頭数

門崎允昭調査

 

年 度

 

1978年 (昭53)

♂6, ♀5, 計11頭

1979年 (昭54)

♂1, ♀1, 計2頭

1980年 (昭55)

♂3, ♀4, 計7頭

1981年 (昭56)

♂2, ♀1, 計3頭

1982年 (昭57)

♂1, ♀1, 計2頭

1983年 (昭58)

♀1,       計1頭

1984年 (昭59)

0

1985年 (昭60)

♂1, ♀2, 計3頭

1986年 (昭61)

0

1987年 (昭62)

0

1988年 (昭63)

性別不明 計3頭

1989年 (平元)

0

1990年 (平2)

0

1991年 (平3)

0

1992年 (平4)

0

1993年 (平5)

0

1994年 (平6)

0

1995年 (平7)

0

1996年 (平8)

0

1997年 (平9)

0

2001年 (平13)

♂1,       計1頭

2002年 (平14)

0

2003年 (平15)

0

2004年 (平16)

0

2005年 (平17)

0

2006年 (平18)

♂1,       計1頭

2007年 (平19)

0

2008年 (平20)

0

2009年 (平21)

0

2010年(平22)

0

2011年(平23)

♂5, ♀2, 計7頭*

 

(資料 2)

① <熊の駆除は止めるべきと言う理由>
(資料1)を参照されたい。

門崎は札幌市での羆の捕獲数について調査し、1978年~2011年迄の34年間の捕獲資料を有しているが、これを見ると、1983年~2010年の28年間の年間の捕獲頭数は1頭ないし0である。しかし昨年(2011年)は捕獲数が7頭と異常に急増した。これは極めて由々しき状況で、ここで、熊の駆除の在り方について、真摯に再考すべきだと考える。
人間の歴史は野生動物との軋轢の歴史であるが、それは未だに多くの野生動物との関係で旧態依然に続いている。道民と熊との関係はその最たる物である。我々はその軋轢関係に終止符を打ち、熊を極力殺さずに、しかも各種被害(住宅地への出没、人身事故、経済的被害)を予防しつつ(これは可能である)、共存すべき時代を開闢すべきだと主張したい。その基本は、「野生生物に対する倫理 ( 生物の一員として人が為すべき正しき道 ) 」の問題として、この大地は総ての生き物の共有物であり、熊も本来の生活地で生きて行く権利があるはずだし、それを認めるべきであるとする理念による。 要するに、現在の熊の駆除制度を根本的に見直し、駆除しない施策に転換することが緊急課題だと私は看取している。熊を殺さない施策が完成して、初めてわが国も本物の自然保護が確立し得たと国内外に公言し得よう。札幌市がその先駆的施策を採用し全国に先鞭をつけることを強く望みたい。...............(以上)  

 

(資料 3)

② <住宅地への熊の出現を予防するため、出没地の林縁沿いに柵を設置すること、と言う理由>
住宅地への熊の出現を防ぐには、柵を設置し熊との棲み分けを図ること以外に有効な方策はない。熊が出てきそうな場所は既に、過去のデータから、判るはずだし、不明な箇所は人家から100~200mの範囲の樹林地の地理的環境とそこでの熊の痕跡調査をすることで解明できる。柵は有刺鉄線で縦横15cmの目幅で、高さ2mの柵とする。事例として、国立滝野公園では熊が侵入しそうな地所全部に柵を設置し効果をあげている(最初目幅5cmの金網を7.4km張ったが、効果が無く、門崎の助言で金網の上に有刺鉄線を6.27km張り有効化した)。なお、電気柵は設置の簡便さから短期間な使用には利便性があるが、長期的な使用には、雑草の繁茂で接触漏電し、保守管理に問題がある。札幌市で毎年多額な熊調査費を支出していると聞くが、これで、柵設置を進めた方が、人と熊の両方により寄与すると進言したい。要するに被害が予防し得れば、熊が幾頭居ようがそれは問題では無いと言うことである。
札幌市は今年も約八千万円もの熊対策費(調査費)を付けていると言う。札幌市の熊対策で、公金を8千万円も出して調査せねばならないことなど、無いと言いたい。熊が何頭いたって良いではないか。住宅地と熊の棲み分けを図れば良いのである。
札幌市が調査を委託した業者は、奥山の林道終点等に有刺鉄線の囲いを造り、その中に臭気のする誘餌を下げ熊を誘き寄せて毛を取り、DNAを分析する調査を進めているようだが、これは正に税金の無駄遣いそのものである。生息数を得たいのであれば、新雪期に林道を車で走り、足跡調査をすれば、個体識別を含めたおよその生息数が把握出来る。それで、生息数に付いては充分ではないのか。調査手法のあり方と調査予算額について、再検討を強く求めたい。..... (以 上)

 

(資料 4)

③ 熊に関する正しい知識を啓蒙すること。

 例えば、熊が住宅地に出て来る原因について。
原因は4大別される。

① 作物(農作物・牧草)・果樹(果実)・家畜・生ゴミ等を索餌採食するため。この種の熊は年齢・性別・母子・兄弟(母から自立した後、兄弟姉妹で短期行動することがある)に無関係である。
② 樹林地を徘徊していて、樹林地内や樹林地そばの道路や住宅地付近を通過するために出てくることがある。この種の熊も年齢・性別・母子・兄弟に無関係である。但し、成獣(通常)は孤独性が強く人を避けて行動する。
③ 母から自立した若熊が自分の生活圏を確立すべく森林地帯を探索徘徊していて、林地の端に来てしまい、そこに人家や農地や果樹園があるのを見て、好奇心を起し、その好奇心を満たすべく(それを確認すべく)出て来ることがある。
④ その他の原因で出てくることもある。
・稀であるが、発情期の5月6月に発情した雄を避けて雌が逃げ出て来る事がある。

  • 更にこれも稀ではあるが、母子で林地を徘徊中に市街地に近づいてしまい、子熊が興奮して市街地に出てしまい、心配した母熊も子について共に出て来てしまうことがある。

  • 昨年斜里町で日中市街地に出て来て徘徊し駆除された母子が該当する。

<人の居住地での熊の出現に対する対策>
人の居住地での熊の出現に対し、熊と人の両方に対する対策を立てる場合には、以下の事柄について、正しく把握ができていなければ、適切な対策対応が出来ない。

 <先ず以下の事柄を、的確に把握することが必須>

① 出没している熊がどういう熊か。
具体的には、母から今年自立させられた若熊か。
母子熊か。単独熊か。複数の熊か。兄弟熊か。成獣の単独熊か。

② 出没している熊の目的は何か(必ず目的・理由がある)。
好奇心からか。食べ物目当てか。単なる通過のためか。その他。

③ 人に危害を与える可能性がある熊か否かを判断する。

これは、出没時間帯。人に寄って来るか否か。食べ物を漁った形跡又は漁ろうとした形跡が有るか否か(生ゴミを漁さった形跡がある。食堂やコンビニに立ち寄った形跡がある等)で判断する。

<街中を移動する熊の特性>
熊は100%樹林に依存した生活型の獣であることから、街中を移動する場合でも樹木がある所から樹木が有る所へ移動する。

<夜にのみ街中に出て来る熊は人を襲わない>
①夜にのみ街中に出てきている熊は人を慎重に避けて行動している証拠で、熊が出て来ているその様な場所に人が夜間に出歩いても、熊の方で先に人の存在に気づき身を潜めるもので、人を襲うことは先ず無い。
②心配ならば、小さい鈴を鳴らしながら歩くと良い。
こう言う熊も、好奇心が満たされれば、本来の山(樹林地)に戻って行くものである。

<山林部の道路で熊が目撃される原因>
・札幌市の地理的環境を熊との関連で概観すると、市の西側は幅30kmないし35kmの範囲は起伏の多い山地森林地帯である。そして、その半ばの奥地2分の1は熊の生息地であり、手前2分の1は熊の出没地である。
・熊が長期に続けて使っている土地を生息地と言うが、札幌圏では、奥手稲山・迷沢山・砥石山・真簾峠西側を結んだ線の以西部が該当する。そして、その東側の林地一帯は住宅地付近まで熊が時に出てくる出没地である。もちろん藻岩山・三角山も希なる出没地に該当する。場所により、これらの山林を分断する形で宅地や道路が造成されており、熊は否応なくそこを横断せねばならない地理的状況にある地所が多数有り、そう言う地所ではそこを熊が横断することがある。熊は孤独性が強い獣で、特に本能的に人との遭遇を嫌うので、横断する場合でも、人と遭遇しがたい場所では日夜の別なく人に会わないように用心して横断などするが、人と遭遇しやすい場所では、人と遭遇し難い日没後から朝方にかけての時間帯に横断することが多い。これが時にドライバーに見られることがあり、騒がれるのであるが、夜間に横断などしているということは、熊が人を警戒している証拠で、この種の熊は人を襲うことは過去の事例から先ず無いから、騒ぎ立てるべきではなく、静観すべきである。マスコミも冷静に対応して欲しいもので、山林部での道路で熊が目撃されたことぐらいで、熊出没などと報道するのは慎んでほしいものだ。北海道の自然は山林部での道路を熊が横断するような自然が本来の姿であることを、良い意味で啓蒙して欲しいと強く望みたい。   

下記事項についても、正確な事を啓蒙すべきである。
① 人身事故の原因と対策について。
② 人と熊が共存すべき理由について。
③  熊の生態について。

③に関連して、2012年6月の「広報さっぽろ」の、熊特集記事に、「目(視覚)はあまり良くない」とあるが、これは誤りである。羆は闇夜に水中の鮭鱒を、岸辺から狙い飛び込み手づかみするし、熊牧場で、20~30m離れた所に居る熊にお菓子を投げ与えると、目で追い手や口でそれを正確に捕獲する視力があるから、視覚は良いというべきである。

 

札幌市の熊対策の問題点の事例として、<今年度の南区藻岩下1での件>についてのみ、述べる。過年度の市の熊対策は同程度と理解されたい。
2012年4月20日、「札幌市南区藻岩下1」の藻岩山山麓端の樹林地で草などを採食していた若熊を、朝6時半頃、猟友会のハンターがライフル銃で、危険予防の駆除と称し殺したが、これは正に生物倫理に反する行為である。
殺された熊は、19日と20日の報道映像で見たところ、身体の大きさと一瞬写し出された犬歯の大きさから、2歳2ヶ月令の個体のようであった。
この熊は最初に目撃された19日以来、住宅に近い場所とはいえ、あくまで林地内で草などを採食しており、住宅地に出て来た様子も、出て来る様子も見られなかった。熊がいた場所は樹の葉が茂ると、外部から見え得ない環境であり、葉がなく外部から樹林地内部が見通せる時季でも、熊からすれば安心できる己の環境であり、それが人家から20~30mのところでもそうなのである。このような場所では、熊が人を気にせず、恐れないのも当然で、それゆえに、そこで草などを採食していたのである。映像に写し出された熊の顔・表情を見れば、熊は安心しきって草を食んでいたではないか。その熊の心も見切れないで、熊がいる場所が人家に近くで、危険だから射殺した。そして、人を恐れない「新世代熊」(北大教授の坪田敏男「4月21日道新25面」の可能性がある)とのコメント。これは、熊の生態についての無知をさらけ出したもので、あきれるばかりだ。
だから、殺すべきではなかったと我々は主張したい。
私はこれまでの43年に亘る熊の諸々の調査研究結果から、この熊は住宅地に出て来る心配は無いと確信していたが、どうしても居住地に出て来る心配危惧があれば、あの林地の縁にそって、200m程電気柵(移動式のソーラー式があり、容易に設置できる)を臨時に張れば、まず生態的に熊は出て来ない。これもせずに、殺した事は、生物倫理(生物の一員である人として、他種生物に対する正しき道の問題として)にも恥ずべき行為である。 ....... (以 上)


一般財団法人 日本熊森協会
本部所在地 〒662-0042 兵庫県西宮市分銅町1-4 、
電話 0798-22-4190
会長 森山まり子
副会長 室谷悠子(弁護士)
設立 1997年4月1日
会設立の目的 
「森を残し、全生物と共存しなければ人間も生き残れない」という現代生態学が
出した結論に基づき、奥山生態系の頂点に立つクマをシンボルに、水源域である
奥山保全・再生活動に取り組む。
会員数 23.000名

<顧問> 就任順
東山省三 元和歌山県鳥獣保護連絡会会長【永久顧問】
宮澤正義 野生動物(月輪熊)研究者
保利耕輔 衆議院議員(元文部大臣)
貝原俊民 前兵庫県知事
赤木文生 国際ロータリー第2680地区パストガバナー(元日本弁護士会副会長)
杉田 哲 元兵庫県県会議員
赤松正雄 衆議院議員(元厚生労働副大臣)
中野和子 公認会計士・税理士
小林隆彰 比叡山延暦寺学問所長
宮下正次 元関東森林管理局
マルコム・フィッツァール カピラノ大学名誉教授 博士
門崎允昭 北海道野生動物研究所所長 農学博士
中山靖雄 財団法人 修養団 元伊勢道場長 相談役
大前繁雄 前衆議院議員(元防衛大臣政務官)
安積遊歩 ピアカウンセラー
鳩山邦夫 衆議院議員(元総務大臣)
安田喜憲 東北大学教授 博士(環境考古学)スウェーデン
王立科学アカデミー会員  
西川節行 元広島大学総合科学部教授 関西経済連合会
橋本淳司 アクアスフィア代表 水ジャーナリスト
船越康弘 岡山県 民宿「百姓屋敷わら」経営
石 弘之 前東京大学大学院教授 前駐ザンビア特命全権大使
船瀬俊介 消費者運動ジャーナリスト
今本博健 水工技術研究所代表 工学博士 京都大学名誉教授
平野虎丸 森林・林業アドバイザー 一般社団法人エコシステム協会理事 

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