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羆が住宅地に出て来る原因とその対策

農学博士 門崎 允昭

2011年11月20日

 

<まず、北海道の羆(以下に熊と書く)の現況を述べると>
  現在、北海道の約半分(50%) の地域が熊の生息地(熊が続けて長期に利用している地域)であり、その外側部分の、全道面積の約20%の地域が出没地(熊が一時的に使う場所)である。要するに、全道面積の約70%の地域が熊の生息地ないし出没地になっている。
  生息数は子が生まれる前の12月が最少で、約1,900頭、子が生まれた後の2月下旬が最多で、約2,300頭である(いずれも私の調査・推算である)。
  熊は基本的に、生活地を森林地帯に依存している種である。ちなみに、北海道の森林面積は、現在全道面積の71.5%である。この数値は30年前と同じである。

<熊が道路や住宅地に出現する原因>
原因は4大別される。
@ 作物(農作物・牧草)・果樹(果実)・家畜・生ゴミ等を索餌採食するため。この種の熊は年齢・性別・母子・兄弟(母から自立した後、兄弟姉妹で短期行動することがある)に無関係である。
A 樹林地を徘徊していて、樹林地内や樹林地そばの道路や住宅地付近を通過するために出てくることがある。この種の熊も年齢・性別・母子・兄弟に無関係である。但し、成獣(通常)は孤独性が強く人を避けて行動する。
B 母から自立した若熊が自分の生活圏を確立すべく森林地帯を探索徘徊していて、林地の端に来てしまい、そこに人家や農地や果樹園があるのを見て、好奇心を起し、その好奇心を満たすべく(それを確認すべく)出て来ることがある。
C その他の原因で出てくることもある。
・稀であるが、発情期の5月6月に発情した雄を避けて雌が逃げ出て来る事がある。
・更にこれも稀ではあるが、母子で林地を徘徊中に市街地に近づいてしまい、子熊が興奮して市街地に出てしまい、心配した母熊も子について共に出て来てしまうことがある。

 

<人の居住地での熊の出現に対する対策>
人の居住地での熊の出現に対し、熊と人の両方に対する対策を立てる場合には、以下の事柄について、正しく把握ができていなければ、適切な対策対応が出来ない。

 

<先ず以下の事柄を、的確に把握することが必須>

@ 出没している熊がどういう熊か。
具体的には、母から今年自立させられた若熊か。
母子熊か。単独熊か。複数の熊か。兄弟熊か。成獣の単独熊か。

A 出没している熊の目的は何か(必ず目的・理由がある)。
好奇心からか。食べ物目当てか。単なる通過のためか。その他。

B 人に危害を与える可能性がある熊か否かを判断する。

これは、出没時間帯。人に寄って来るか否か。食べ物を漁った形跡又は漁ろうとした形跡が有るか否か(生ゴミを漁さった形跡がある。食堂やコンビニに立ち寄った形跡がある等)で判断する。

<札幌市の愚かな熊対策>
札幌市の場合、上記事項が全く為されて居ず、やって居ることは、市民に熊の恐怖心を増長させることしか、税金を使って為していないと言わざるを得ない。

市が行っていることは、熊注意の看板やポスターを電柱に張り出すこと。学童に集団登下校を促すこと。公園への立ち入りを禁止すること。ゴミ出しの場所を見て廻ること、だけである。
これは、熊の生態を正しく理解していない者達がその対応を行っているためである。いわば、熊について無知な集団が為せる行為結果である。

<札幌市で人の住宅地に出て来た熊>
@ <10月6日の晩から8日の未明にかけて、3晩続けて中央区の円山公園から藻岩山のいずれも北東部の住宅地に出てきていた熊>
私が現場を調査した結果、10月6日の晩から8日の未明にかけて、3晩続けて中央区の円山公園から藻岩山のいずれも北東部の住宅地に出てきていた熊は1歳8ヶ月令のこの6月から8月の間に母から自立させられた若熊である。

A <また西区の西野に出ていた熊>
また西区の西野に出ていた熊は、母から同じくこの6月から8月の間に自立させられた2歳8ヶ月令の若熊である。

B <10月27日の晩に南区南沢から川沿地区にかけての住宅地に、出て来た熊は、身体の大きさと行動様態から、私は10月6日の晩から8日の未明にかけて、3晩続けて中央区の円山公園から藻岩山のいずれも北東部の住宅地に出てき来た熊と同一個体だと看取している>
この個体は20日間かけてここまで移動して来たものである。

これらの若熊は母から別れた後、自分の生活圏を確立すべく森林地帯を探索徘徊するが、その過程において、林地の端に来てしまい、そこに今まで見たことがない多数の人家があるのを見て、好奇心を起し、それを満足させるために、人を避け得る夜に見に出てきていたのである。 
これらの熊は共通して、 @若熊である。A夜間のみ出て来た。 B全く食べ物をあさっていない。

 

<結論>
・食べ物目当ての出現ではない。人を恐れない熊ではない。人慣れした熊でもない。
・好奇心を起し、それを満足させるために、人を避け得る夜に見に出て来ていたのである。
・山野での食べ物不足で出て来たものでは、決してない(全く食べ物をあさっていない)。

<街中を移動する熊>
熊は100%樹林に依存した生活型の獣であることから、街中を移動する場合でも樹木がある所から樹木が有る所へ移動する。

<夜にのみ街中に出て来る熊は人を襲わない>
@夜にのみ街中に出てきている熊は人を慎重に避けて行動している証拠で、熊が出て来ているその様な場所に人が夜間に出歩いても、熊の方で先に人の存在に気づき身を潜めるもので、人を襲うことは先ず無い。
A心配ならば、小さい鈴を鳴らしながら歩くと良い。

<この種の熊の行方>
こう言う熊も、好奇心が満たされれば、本来の山(樹林地)に戻って行くもので、今回の熊達も私が予言した通り、本来の生活地である山に戻ったではないか。

<10月8日、TBSとHBC の5人の記者と私は、札幌西部の円山公園から定山渓道路(石山道り)に、ここ数日間の熊の出没現場をほぼ総て検証した>
その結果、
@ 円山公園から定山渓道路(石山道り)にかけて、6日から8日にかけて、出没して居る熊は、 藻岩山ロープウエイの東側0.5km付近から出没してきていることが、ほぼ確かであることを確認した。
A 旭山記念公園では、東側の舗装道路から約70m程、公園内に入った地点の2カ所で熊の1日から2日前の糞を見つけた。糞は直径3cm程で、食べた物は見た限り全量が自然の草ばかりで、色は黄褐色、臭いは甘酸っぱく感じた。糞の長さは数cmから10cmの断片になっていたが、それらの合計長は最初の糞は40cm程、奥の糞は20cm程であった。TV局スタッフの話では、その後この糞を調査した札幌市の関係者は犬の糞だと言って居たと言うが、犬狐狸洗い熊は全量が草ばかりと言うような糞は決してしない。

<山林部の道路で熊が目撃される事>
・札幌市の地理的環境を熊との関連で概観すると、市の西側は幅30kmないし40kmの範囲は起伏の多い山地森林地帯である。そして、その半ばの奥地2分の1は熊の生息地であり、手前2分の1は熊の出没地である。
・熊が長期に続けて使っている土地を生息地と言うが、札幌圏では、奥手稲山・迷沢山・砥石山・真簾峠西側を結んだ線の以西部が該当する。そして、その東側の林地一帯は住宅地付近まで熊が時に出てくる出没地である。もちろん藻岩山・三角山も希なる出没地に該当する。場所により、これらの山林を分断する形で宅地や道路が造成されており、熊は否応なくそこを横断せねばならない地理的状況にある地所が多数有り、そう言う地所ではそこを熊が横断することがある。熊は孤独性が強い獣で、特に本能的に人との遭遇を嫌うので、横断する場合でも、人と遭遇しがたい場所では日夜の別なく人に会わないように用心して横断などするが、人と遭遇しやすい場所では、人と遭遇し難い日没後から朝方にかけての時間帯に横断することが多い。これが時にドライバーに見られることがあり、騒がれるのであるが、夜間に横断などしているということは、熊が人を警戒している証拠で、この種の熊は人を襲うことは過去の事例から先ず無いから、騒ぎ立てるべきではなく、静観すべきである。マスコミも冷静に対応して欲しいもので、山林部での道路で熊が目撃されたことぐらいで、熊出没などと報道するのは慎んでほしいものだ。北海道の自然は山林部での道路を熊が横断するような自然が本来の姿であることを、良い意味で啓蒙して欲しいと強く望みたい。

<街中に出て来ている熊>
  札幌市の西部地域の市街地では、熊が夜に出て来て、人家に近づいたり、道路や公園にまで出て、住民の心配事になっている。この熊は今年の 6 月から8月の間に母から自立させられた、1歳8ヶ月令(子が1頭の場合で、体長は1.2 m前後)か 2 歳8ヶ月令(子が2から3頭の場合で、体長 1.7m 前後)の若熊である。これらの若熊は母から別れた後、自分の生活圏を確立すべく森林地帯を探索徘徊するが、その過程において、林地の端に来てしまい、そこに人家や農地や果樹園があるのを見て、好奇心が生じ、それを確認すべく、人を避け得る夜に人家に近づいたりし、道路を歩き廻ったりすることがある。今回市街地で見られて居る熊はこの種の個体である。 熊は 100% 樹林に依存した生活型の獣であることから、街中を移動する場合でも樹木がある所から樹木が有る所へと移動する。先にも書いたが、夜にのみ街中に出てきている熊は人を慎重に避けて行動しているので、その様な場所を夜間に人が出歩いても、熊の方で先に人の存在に気づき身を潜めるもので、人を襲うことは先ず無い。

心配ならば、小さい鈴を鳴らしながら歩くと良い。

こう言う熊も、好奇心が満たされれば、本来の山(樹林地)に戻って行くものだ。

一晩の徘徊で満足して出て来なくなる熊もいれば、数日間続けて、あるいは間を置いて数度出てくる熊もある。いずれにしても、このような夜だけ徘徊出歩く熊は人を襲はない。ましてや、この種の熊は人慣れした訳でもなく、これを「人慣れした、人を怖れない熊などと言うのは、全くの素人考え」である。

<2011年11月7日の北海道新聞朝刊>
・2011年11月7日の北海道新聞朝刊に、斜里の知床センターの山中正実氏は熊が出没している理由に「今回の出没が若い個体なら、偶発的に迷い込んでしまったか、人への警戒心が薄い新世代熊」が増えた結果だと言っているが、「偶発的に迷い込んだものならば、同じ個体が幾度も出て来るはずはないし、人を怖れないのであれば日中出て来て良いはずで」。彼のコメントは正しくない。

・また、同記事に北海道大学の獣医学科の坪田敏男教授は「猟師の数が減った影響で」とか「春熊駆除を中止したから」、熊の捕殺数が減り、熊が増えたために里への熊の出没が多くなったとか、人間を恐れない羆が増えていると言っているが、羆の捕殺数は決して減っていない事実すら認識せずに、臆面もなくこのような無知なコメントをする彼に私は驚かざるを得ない。

<畑の作物や果樹園の果物を食害に出て来る熊>
  札幌市の西部地域の農地や果樹園で作物や果樹が熊に食害される被害が例年発生しているが、これらを食害する熊は年齢に関係なく、これらを食する事を渇望した熊、ないしは、それら作物や果樹がある地所に偶然出て来た熊が試み的にそれらを食べ、嗜好があえば満足するまでそれを食べ続けるということをする。この種の被害も札幌では発生している。

<千歳の民家のガラスを割った熊>
  千歳市で夜ガラスを壊した熊が居たが、これはガラスに映った自分の姿を、他の熊と誤認し排除しようと飛びかかりガラスを壊してしまったもの、と解すべきもの。この熊は自衛隊の演習場から、出て来たものだから、演習場の出てきた箇所を特定し、そこを有刺鉄線で塞ぐことで出没を防止できる。それにも拘らず、千歳市では檻罠を仕掛け殺そうとしているが、これは全く間違った、生物倫理(これは生物の一員として、人が為すべき正しき道の問題)に反する行為と言うべきである。

<恵庭市で殺した胃袋が空の熊について>
  ・昨年(2010年)はドングリ類が全道的に豊作で、母体の栄養状態が良く、それで今年(2011年)の1月2月の熊の出生率が高く、今年(2011年)は全道的に熊の頭数が増えているとか、恵庭で殺した熊の胃の中に食べたものが無かったことと、今年(2011年)は全道的にドングリ類(ミズナラ、コナラ、カシワ)が不作であることとを結びつけて、この秋(2011年)は熊が餌を求めて人家や作物・果樹園に多く出てくるであろうとの、「道庁の妄言」をそのまま真に受けての報道が目立つ。

・恵庭の熊は、胃の内容物や、全身的な筋肉や脂肪の付き方など、私は見ていないから、的確なことは言えないが、この熊は索餌採食が出来ない病的な状態にあったことも考えられる。
それを明らかにせずに、全道的にドングリ類(ミズナラ、コナラ、カシワ)が不作で、熊が痩せ、食を求めて今年は人家に出没する熊が多いとの短絡的な報道が目立つが、これは誤った見解である。

・熊が飢えるほどドングリ類は不作ではないし、熊は木の実を40数種類食べ、他に草類70数種類、動物性の物は蟻類から鹿に至るまで、多様なものを食べている。
また、野生の熊について餌の多少と出生率との相関性について、経年的に追跡調査したデータは未だないはずである。

<檻罠での熊の駆除>
・檻罠は縦横約1m、奥行き2.3m程の鉄製の檻で、誘餌に蜂蜜・干し魚・家畜の餌(ペリット)等を入れた罠である。例えば、作物や果樹に被害があると、その被害が発生した場所は人家に近く危険であると理屈を付けて、そこには置かず、離れた山林に置く。また多様な餌を入れることで、嗜好の異なる多様な熊を罠に誘い込む効果を上げ、それで、加害熊でない個体が罠の餌につられて掛かる確率が高い。近年は年間の捕獲個体の8割方はこの罠での捕殺である。
・ 各種被害を予防しつつ、熊を殺さない施策をとるべきではないか。この大地は人間だけのものではない、万物の共有物であるという生物倫理(自然に対する倫理)を、人は持つべきでないのか。
・ 例えば、札幌市では熊対策費として、今年度も数千万円とかを計上していると言う。この予算で、電気柵を数十組買い、被害が発生している所に貸し出すなどした方が、よほど有効ではないのか。
・ まず、現在の熊の駆除制度を根本的に見直し、駆除する熊を減らす施策に転換させることが緊急課題だと私は看取している。熊を出来得る限り殺さない施策が完成して、初めてわが国も本物の自然保護が確立し得たと国内外に公言し得よう。

 

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札幌恵庭千歳の熊の生息・出没圏の東端域 北海道野生動物研究所の調査結果
熊印は札幌恵庭千歳の熊の生息・出没圏の東端域を示す
www.yasei.com

 

 
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